以前、初心者向けの哲学書を紹介する『挫折する前に!読みやすい初心者向けのおすすめ哲学書5選』という記事を書きましたが、今回は個人的に
「これは一生かかってでも読め!」
と思う哲学書を紹介したいと思います(笑)。
僕自身、ここで紹介する哲学書をすべて読み切ったワケではありません。
しかしこれから紹介するのは、たとえ数十ページしか読めなくとも人生を劇的に変えるインパクトのある哲学書ばかりです。
哲学書の著者も、その1冊を書くために10年以上の歳月を費やしていることが珍しくありません。
そんなものを僕らのような凡人が数カ月やそこらで読めるはずがないですから、一生付き合っていく覚悟で読むぐらいで丁度いいと思います。
哲学書を読むことは一種の修行です。キツイのは当たり前だと思って向き合ってくださいね。
それでは僕のおすすめを紹介していきましょう。
デンマークの哲学者、キルケゴールの代表作です。これが一番おすすめだから最初に紹介したワケじゃないんですが、この本は哲学書にしては珍しく役に立ちます(笑)。
哲学や哲学書というと、何の役にも立たないものの代名詞のように使われている節がありますが、『死にいたる病』はそうじゃないところが画期的なんですね。
この本は僕から言わせればふかーい自己啓発書です。
読めない人にとっては「どこが!?」と思うでしょうが、僕の周りにいる読める人たちはみんな僕の意見に賛同してくれています。読めば読むほど自己啓発です、マジで。
実際、キルケゴールはこの本の中で堕落したキリスト者(キリスト教徒)やキリスト教徒以外の人たちに対して
「お前らが感じてる絶望は全然絶望じゃねぇ!」
と繰り返し叫び、真に絶望することがいかに自己を高めることであるかを説いています。
彼にとって絶望とは単なるマイナスなことではなく、踏まえて乗り越えるべきもの、人間が弁証法的に進化・成長するために無くてはならないものなのです。
彼は著書の中でこんなことを言っています。
世間の目から見ると、冒険をおかすことは危険なことである、それはなぜであろうか?冒険すると失うことがあるからである。そこで冒険をしないのが賢明なことになる。
けれども、冒険をしない場合には、そのときこそ、冒険をすればどれほど多くのものを失うにしてもそれだけではほとんど失うことがないはずのものを、どんなことがあっても決して失うはずのないものを、恐ろしいほど易々と失いかねないのである。
つまり、自己自身を、それっがまるで無ででもあるかのように、しごく容易に、まるっきり失ってしまいかねないのである。
おもうに、もし私が冒険をしそこなったとしたら、それならそれで、人生が罰を加えて私を助けてくれるだろう。しかし、私がまったく冒険しなかったとしたら、そのときには、一体誰が私を助けてくれるだろうか?
(引用元:ちくま学芸文庫版『死にいたる病』P67)
これって、失敗を怖がる奴は成功しない、って言ってるのと同じですよね?こんなことが『死にいたる病」には書かれているのです。
もちろん彼のこの発言には僕らが理解している以上の深い意味が込められていますが、言ってることは自己啓発なんですよ。
この本を読むのは最初はかなり大変だと思いますが、哲学書に焦りは禁物です。
一回開いてみて読めないと思ったら、とりあえず3年ぐらい寝かせておいて、味わいが深くなった頃にまた開いてみる、みたいな感じでいきましょう。
いつか読める日がくると信じて。
世界3大難解哲学書の1つ『存在と時間』。読めるか読めないかはともかくとして(おい笑)、これは間違いなく名著です。
こんな分厚い本が本編ではなくすべて「序論」で、しかも未完成に終わった著作だというのは有名な話ですが、それでもこの本が後世の人たちに与えた影響は計り知れません。
この本に書かれているのは、乱暴に言ってしまえば、僕らのあり方(存在の仕方)が時間と密接に関係している、それどころか存在こそが時間である、ということです。
ただ僕が思うに、ハイデガーの著作の凄さは内容よりも「書き方」ないし「あり方」にあります。
普通、僕らが読んだり書いたりする文章というのは物事を静的、つまり物事のその瞬間を切り取ったものを記述するのですが、ハイデガーはそうじゃないんですね。
彼の文章が読み難い理由はそこにあって、彼は動的なものを動的なまま扱ってそれを強引に文章にしているのです。
以下は『形而上学入門』からの引用ですが、例えば彼は「問うこと」をこんな風に表現しています。
問うことそのものが、問いながら変容し(すべての本当の問いかけは、このことを遂行する)、すべてについて、すべてを通して、一つの新しい空間を投げ開くのだ。
(引用元:『形而上学入門』P34より)
僕らが定義すると「問うこと」は、分からないことを知ろうとすること、ぐらいの意味になるでしょう。
でも彼にとってはこれが「問うこと」の定義なのです。
ですから、『存在と時間』であれ、そのほかの著作であれ、ハイデガーの本を読もうと思う場合は、僕らもハイデガー的な思考(動的な思考)を身につける必要があります。
僕らが学校で習ったり、一般の本で学んだりすることはほぼ間違いなく静的な思考に基づいたものです。
その思考のままではハイデガーの本はまず読めません。
彼の著作はカントの『純粋理性批判』のように難解過ぎて読めないというよりも、思考の枠組みからしてまったく別のものなのです。
しかしだからこそ読めるようになる価値は非常に大きいと言えるし、読めるようになると凄く楽しい。
『存在と時間』に限定する必要はないんですが、近代的なものの見方(パラダイム)から脱却するために、彼の著作ほど役に立つものはないと思います。
読むのは大変ですが、がんばってみてください。
僕もまだまだがんばります(笑)
『真理と方法』はハイデガーの教え子、ガダマーの主著です。ガダマーと言えば解釈学ですね。この本にはその解釈学のことが書かれていません。ウソ、書かれています(笑)
解釈学というのはその名の通り、解釈を研究した学問です。
もともとは文献解釈が解釈学のメインだったんですが、それが発展して『真理と方法』になると、芸術やコミュニケーション、理解そのものの哲学的問題が取り上げられるようになっています。
例えば彼は理解についてこんなことを言っています。
理解はそれ自身、主観性の行為としてよりは、過去と現在がたえず互いに他に橋渡しされている伝承の出来事への参入として考えるべきである。
(引用元:『真理と方法2』P457より)
彼もハイデガーの弟子だけあって、理解というものを動的に表現しようとしています。ここで彼が言っているのは、理解とは循環だということです。
じゃあ最初っからそう言えよ、って話なんですが、動的な表現だと「たえず互いに他に橋渡しされている」みたいな表現になっちゃうんですね。
こういう分かり難い言葉遣いがたくさん出てくる『真理と方法』ですが、個人的にはコミュニケーションの本質を知るのにはいい本だと思います。
相手を理解するとはどういうことなのか。伝わるとは何なのか。
そういったことに関するヒントがほしいなら、読んでみると面白いかもしれません。
これまたハイデガーの教え子であるアレントの『責任と判断』。
アレントはハイデガーの不倫相手だったことでも有名ですね。
この本は著作というよりも講演の内容を文章化したものなので、普通の哲学書に比べれば若干とっつきやすい感じになっています。
内容は
みたいな話です、めっちゃザックリ言えばですけど。
僕がこの本を勧めるのは、危機的状況に置かれた「生身の人間」というものに肉薄しようとするアレントの姿勢が凄まじいからです。
どういうときに人は平気で殺人を犯し、どういう人が危機的状況でも正気を保って殺人に抗うことができるのか。
彼女は『責任と判断』の中でそんなことを考え、語っています。
危機的状況を考えた、というのが1つのポイントで、彼女が知りたかったのは「生身の人間」、つまり人間の本性なのです。
平常時では眠っている本性が、危機的状況では生々しく表に現れてくる。それが人間です。
追いつめられたときほど、その人の本性が露わになることはありません。
普段めっちゃ優しい人が鬼のように醜くなったり、逆に普段だらしない人が勇者のように勇敢になったり、そういうことがあるワケですよ、危機的状況というのは。
それをアレントは暴こうとしたんですね。
『責任と判断』は僕がここで話しているほど分かりやすくはないですが、上記で紹介した本に比べればかなりましな部類に入ると思います。
もしここまで話したようなことに興味があったら読んでみるといいと思います。
『責任と判断』についてもう少し詳しく知りたいなら、以下の記事も参考にしてみるといいでしょう。
『大衆の反逆』は以前『挫折する前に!読みやすい初心者向けのおすすめ哲学書5選』でも紹介しましたね。
僕がこの本を勧めるのは、オルテガが生きる指針になるようなこと、平たく言うと、背筋が伸びるようなことを言ってくれているからです。
オルテガの言葉には独特の熱さがあります。
実際『大衆の反逆』は僕らのような凡人を炊きつける目的でも書かれています。
ほらほら、お前の人生はそんなもんじゃないだろ!もっとやれることはいっぱいあるだろ!
こんな言葉が書かれているワケじゃないんですが、でも『大衆の反逆』からはこういうオルテガの熱さが伝わってくるんですね。
僕は個人的に熱いのが大好きなんで、彼の言葉にはつい反応してしまいます(笑)。
そう考えるとこの本は、本当の意味での自己「啓発」本です。
巷の自己啓発本のように中途半端に成功を疑似体験させて快楽に浸らせるのではなく、心の底から「このままじゃいけない」と思わせてくれる。
キルケゴールの『死にいたる病』も似たようなところがありますが、『大衆の反逆』とはやっぱり違うんですよね。
キルケゴールはちょっと卑屈な感じがするんだけど、オルテガは堂々としていて紳士的な感じがただよっています。
オルテガは僕の憧れです(笑)
まあ僕の好みはともかくとして、この本は初心者向けとしても紹介したように、読みやすい哲学書でもありますので、最初に挑戦するのにも丁度いいと思います。
もし何を読むか迷っているなら、『大衆の反逆』がおすすめです。
いつものことながら熱く語ってしまいました(笑)
哲学書にかぎらず、今後もいろんな種類のおすすめの本を紹介していければと思っていますので、よかったら楽しみにしていてください。
次はロジカルシンキングの本あたりかなー。
それではまた。
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毛の矛盾論に強く引かれています。
死にいたる病のことで質問したいのですが、可能ですか?